ブラックバス

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オオクチバス(ブラックバス)

『ブラックバス』は北米原産の淡水魚で、サンフィッシュ科オオクチバス属魚類の総称です。
日本で初めて確認されたのは、1925年神奈川県芦ノ湖に放流された『オオクチバス』。
その後、1991年に長野県野尻湖で確認された『コクチバス』。
この2種類が知られています。

日本に定着したわけ

海外からの外来種なわけですから、日本に定着(侵入)できるかどうかは、魚ならば水温や水質といった環境への適応能力や、競合する在来種の有無によって決まります。
オオクチバスの場合、

  • 冬場の水温がかなり低下するカナダや五大湖、さらには亜熱帯の沖縄島での定着が確認されていることから、非常に幅広い水温に適応できる。
  • エサをめぐっての競合者がほとんどいないこと。
  • 産卵床をつくることのできる場所(砂や礫があるところ)さえあれば、富栄養の湖沼や貧栄養のダム湖、そして河川の緩流域など、様々な水域で繁殖できる。
  • 成長は早く、1年で全長約18cmにもなり、最大数十センチに達する大型魚なため、他の生物に捕食されにくい。

以上の理由から、日本の水辺環境は物理的にも生物的にもきわめて住み心地がいいらしい。

食うもの食われるもの。

本来、人間以外の動物は、『食物連鎖』という規則ともいえる方式に従い、食うものと食われるものが存在する。
魚で簡単な例を挙げると、プランクトンを食う小型魚は中型魚に食われ、中型魚は大型魚に食われ、大型魚はクジラなどに食われる。
時に、大型魚がプランクトンや小型魚を食う、ということももちろんあるけれど、基本は上記の通りです。
しかし、侵入生物というものは、天敵のまったくいない世界に放り込まれるのです。
とくに、オオクチバスの場合、主食は魚類ですが、甲殻類や昆虫など、基本的には口の大きさに見合った動く動物ならたいていのものは食べてしまいます。
共食いもしますし、遊泳性の強いものでも、追い掛け回して捕食することも可能です。
オオクチバスの歯は、噛み切るためのものではなく丸飲みするために口の外に出て行かないよう滑り止めのような役割をしています。
さらに、水中のエサが不足すると、水面近くを飛翔するトンボに向かってジャンプして喰らいつくこともします。
長い間、そこに生息している脅威の生物であるならば、在来種は進化をとげて、たちうちできる方法や、身を守る方法を編み出していくのが生態系の常です。
しかし、突然北米から日本の湖沼にやってくるなど、通常の生態系ではありえないことです。
まさに、在来種にとっては脅威のなにものでもないのです。

大食漢が在来生物を食い尽くす

オオクチバスが大食漢といわれていますが、実際どれくらい食べると思いますか?
体重105g(全長およそ18cm、1年魚程度)のオオクチバスは、自体重の3.8倍のエサを年間に捕食すると試算されています。

1年間で捕食するメダカの量
↑図にするとこんな感じです。

体重0.6gのメダカ(十分に成長した成魚)に換算すると、665匹になり、およそ1日に1.8匹です。
少なく思いますか?
では、人間に置き換えてみましょう。
成人男性で、体重が65kgだとして、自体重の3.8倍の量となると、年間247kgです。
一日当たり、676gの食事という計算になります。
ご飯1合が150gなので、ご飯だけならば一日に4.5合。1食1.5合です。
多いでしょう?
それが、繁殖力に優れていれば、すぐ湖に100匹存在するようになります。
そうなれば、年間66500匹。およそ40kgもの魚類やその他生物がいなくなることになります。

問題がなかなかなくならないわけ

ブラックバス問題として、一番最初に野尻湖で1991年にコクチバスが発見されて以来、15年もの間、解決の糸口も様ならないまま、現在でも増え続けています。
この問題が現在、社会問題として認識されている背景には、他のアライグマやマングースにはみられない、本質的に異なる点が指摘されています。
それは、ブラックバスを積極的に利用することで、楽しみや利益を得ようとする社会勢力が根強く存在していることに他なりません。
つまり、ブラックバスがいなくなると困る人たちがいるということです。
たとえば、経済効果を何よりも優先させるブラックバス関連産業(釣具メーカーや雑誌社など)、ブラックバス釣りを推進する関連団体、個人の娯楽を当然の権利として譲らないバス釣り人などです。
この人たちは、『バス擁護派』と呼ばれています。
これとは正反対の立場に立つ人もいます。
バスによる食害に苦しむ内水面漁業従事者、生物多様性保全の理念に基づきバスの徹底駆除・撲滅を主張する研究者や学会、そのほか各種保護団体です。
この2つの立場に関係省庁や地方自治体が絡み、バス問題は混迷を極めているのです。

真の解決に向けて

15年の間に様々な議論が繰り返されてきましたが、ともすればこの問題は、ブラックバスを擁護する人々と直接の被害を被っている漁業者との間の問題に矮小化されがちです。
ブラックバス問題で、一番問題視しなければならないことは、生物多様性保全の理念のはずです。
楽しさ、経済効果などを持ち出しての議論ではなく、生物多様性がなぜ必要なのか、まず基本に立ち返り、その視点で議論がなされない限り、擁護派の理解を得られることはありえないでしょう。
当面、私たちにもできることは、『違法放流をしない』ことです。
放流している人を見かけたら、注意するか、注意できなければ、通報するなどの策を取ること。
そして、
『釣ったバスをリリースしない』。今では泥臭いバスをおいしく食べる方法もあるとか。
(私はバス釣りをしないので、調理法までは実体験してないので、調理方法は他で調べて下さい)
その効果が具体的に見えてきた先に、バスの有効利用についての話し合いの場があると認識すべきだと、私は思います。
◆参考
神奈川県立生命の星・地球博物館発行「侵略とかく乱のはてに~移入生物問題を考える」
↑博物館にて販売中です。

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